世界初!日本酒の香りによるリラックス効果を月桂冠総合研究所が確認

日本農芸化学会2020年度大会で「優秀発表」に

月桂冠

2020年3月26日

月桂冠株式会社

月桂冠株式会社(社長・大倉治彦、本社・京都市伏見区)の総合研究所は、日本酒のフルーティな香りの主要な成分である「カプロン酸エチル」や「酢酸イソアミル」を嗅ぐと、ヒトの心と体にリラックス効果(鎮静効果)をもたらすことを、筑波大大学院 矢田幸博教授の技術指導のもと、ヒトに対する有効性評価試験で明らかにしました。この発見は、世界初の成果となります。

 

日本酒の香りは様々な成分で構成されていますが、中でも酵母によって作られる果物や花のような香りは、「吟醸香」(ぎんじょうか)として人々を魅了しています。吟醸香の主要な成分としては、リンゴのような華やかな香りの「カプロン酸エチル」と、バナナのような芳醇な香りの「酢酸イソアミル」が知られています。月桂冠総合研究所では今回、これら吟醸香の成分を嗅ぐことでヒトにもたらされる効果を検証しました。成人女性18人分の試験データを解析したところ、吟醸香にはストレスや不安などの感情を抑える心理的な効果と、安静時に働く副交感神経活動を優位にする生理的な効果があることを確認しました。

 

本試験の結果から、日本酒における吟醸香の存在が、高い嗜好性とあわせて、ヒトの心と体に高いリラックス効果(鎮静効果)をもたらしていることが明らかになりました。香りのよい日本酒が人々に好まれる理由の一つとして、このような吟醸香のリラックス効果が発揮され、日本酒の香りを楽しむことで心身のリラックスが期待できるためと推察されます。今回の研究成果を生かして、今後、吟醸香の高い新たな日本酒の開発はもちろん、ストレスの緩和や心身の安定など、日常生活に癒しを提供する手段としても日本酒の香りの応用を検討していきます。

 

 

●吟醸香によるリラックス効果、有効性評価試験の概要

<方法>

被験者に自然呼吸下でサンプルを嗅いでもらい、心理的または生理的影響について評価しました(本試験は、臨床試験機関であるチヨダパラメディカルクリニック倫理審査委員会で審査、承認を得た後に被験者への同意書による同意の下、実施しました。また、利益相反関係を報告するものはありません)。

被験者:成人女性18名(30~40代)

サンプル:空気(ブランク)、15%エタノール(コントロール)、「カプロン酸エチル」または「酢酸イソアミル」の香り(各8 mg/Lを15%エタノールに添加)

測定項目:心理的評価として、多面的感情尺度、気分状態の変化、および香りに対する嗜好性を調査

生理的評価として、自律神経活動を評価するために瞳孔対光反応および皮膚温を測定

 

<結果>

「カプロン酸エチル」または「酢酸イソアミル」の香りを嗅ぐことで、ヒトの心身にどのような影響を及ぼすのか、結果の一部を以下に示します。

 

吟醸香を嗅ぐことで、心の平穏をもたらす

香りを嗅ぐ前と後での感情の変化(多面的感情尺度の計測)と、気分の変化(VAS:Visual Analogue Scaleによる評点尺度法)を調査したところ、抑うつ・不安、敵意、感情の高ぶり(活動的快)、緊張感(集中)およびストレス、欲求といった感情や心理状態がカプロン酸エチルまたは、酢酸イソアミルを嗅ぐことで有意に低下することが認められました。

 

 

吟醸香を嗅ぐことで、鎮静効果をもたらす

瞳孔対光反応とは、光に反応し、瞳孔が一過性に縮瞳(収縮)する反応です。自律神経活動により支配される眼球の筋肉によって起こり、鎮静(リラックス)状態では、副交感神経活動が優位になり、縮瞳率※が大きくなります。

「カプロン酸エチル」または「酢酸イソアミル」を嗅ぐと、空気やエタノール(コントロール)だけを嗅いだときよりも、この縮瞳率が有意に大きくなり、副交感神経活動が優位となっていることが分かりました(p<0.01)。この実験により、2つの香気成分に鎮静効果が認められました。

 

※縮瞳率=(光照射前の初期状態の瞳孔径(D1)-光照射後の最小瞳孔径(D2))/D1

 

 

次に、2つの香りはどのように自律神経活動に作用しているのか調べました。

 

緊張すると、手先が冷えるという生理現象があるように、皮膚温は交感神経活動により支配されています。交感神経活動が高まる、つまり覚醒(緊張)状態であると、末梢血管網の「収縮」→血流量の「低下」→皮膚温の「低下」が起こります。逆に、交感神経活動が抑制される、つまり鎮静(リラックス)状態であると、末梢血管網の「拡張」→血流量の「上昇」→皮膚温の「上昇」が起こります。「酢酸イソアミル」の香りを嗅ぐと、空気やエタノール(コントロール)だけを嗅いだときによりも皮膚温を有意に上昇させる効果が認められました。このことから、「酢酸イソアミル」には、交感神経活動を抑えることで副交感神経活動を高める作用があることが示唆されました。一方、「カプロン酸エチル」には、皮膚温の変化が認められなかったことから、直接的に副交感神経活動を亢進させている可能性が示唆され、2つの香りの鎮静効果のメカニズムは異なることが推測されました。

この研究成果は、「日本酒の香りは生理的・心理的リラックス効果をもたらす」と題して、「日本農芸化学会2020年度大会」(主催:日本農芸化学会)で発表しました。なお、本発表は大会実行委員会が「本大会で初めて公表する学術的あるいは社会的にインパクトのある内容を含む発表」と認める「優秀発表」に選ばれました。

研究成果の詳細については、月桂冠のホームページ・研究開発のコーナーでも紹介しています(https://www.gekkeikan.co.jp/RD/sake/sake17/)。

 

●学会での発表

学会名:日本農芸化学会2020年度大会(主催:日本農芸化学会)

日時:2020年3月5日 (講演要旨集発行日、26日に口頭発表を予定していた大会は中止)

演題:日本酒の香りは生理的・心理的リラックス効果をもたらす

Aroma components of Japanese Sake have a psychological and physiological relaxing effect

発表者:○鈴木佐知子1、矢田幸博2、竹内美穂1、石田博樹1(1月桂冠・総研、2筑波大院・グローバル教育院)(○印は演者)

 

●日本酒業界全体の大吟醸酒造りに貢献

―月桂冠による吟醸香を高生産する酵母育種の歴史―

月桂冠では1980年代後半、酵母が醸し出す香気成分「カプロン酸エチル」「酢酸イソアミル」などの生成機構の解明に成功しました。その成果をもとにして吟醸酒造りに適した酵母を開発し、特許技術を広く開放してきました。それらの技術を用いて育種した菌株は、「きょうかい酵母」として公益財団法人日本醸造協会を通じて頒布され、全国の蔵元で広く活用されています。月桂冠の酵母育種技術が活用されたものとしては、「きょうかい1601号」、日本醸造協会と月桂冠の共有特許権となっている「きょうかい1701号」など吟醸香を多く作る酵母のほか、有機酸のひとつリンゴ酸を多く生産する酵母などがあります。特に1601号をもとにバージョンアップされた日本醸造協会の「きょうかい1801号」は、全国新酒鑑評会への出品酒の醸造にも多く使われています。月桂冠による酵母の研究と開発の成果は日本酒業界全体で活用されており、酒の香りや酸味をコントロールして目的とする美味しい酒質へと醸すことに貢献するなど、大吟醸酒造りを支えるもとになっています。月桂冠の酵母育種技術はオリジナル酵母の開発にも活用しており、直近では、従来の吟醸香高生産酵母の約2倍の吟醸香生産能を持つ酵母を育種するなど、吟醸香を高めた日本酒造りに直結する成果にもつながっています(「カプロン酸エチル超高生産株の育種と清酒実地醸造試験」と題して、「日本農芸化学会2020年度大会」で発表)。

 

●月桂冠総合研究所

1909(明治42)年、11代目の当主・大倉恒吉が、酒造りに科学技術を導入する必要性から設立した「大倉酒造研究所」が前身。1990(平成2)年、名称を「月桂冠総合研究所」とし、現在では、酒造り全般の基礎研究、バイオテクノロジーによる新規技術の開発、製品開発まで、幅広い研究に取り組んでいます(所長=石田博樹、所在地=〒612-8385 京都市伏見区下鳥羽小柳町101番地)。

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