適切な運動と音楽の組み合わせにより認知機能の維持・改善に効果!

2014年6月5日

国立大学法人三重大学

三重県御浜町

三重県紀宝町

一般財団法人 ヤマハ音楽振興会

適切な運動と音楽の組み合わせにより認知機能の維持・改善に効果!

産学官連携による地域在住高齢者を対象とした研究

御浜(みはま)・紀宝(きほう)プロジェクト 

-やさしい音楽体操プログラムの活用による1年間の実証実験の結果を

医学系オンラインジャーナル「PLOS ONE」に論文発表-

 三重大学大学院医学系研究科(佐藤正之准教授)、三重県御浜町(町長:古川弘典)、同紀宝町(町長:西田健)、およびヤマハ音楽振興会(本部:東京都目黒区、理事長:梅村充)は、地域在住の健常高齢者を対象に認知症予防を目的とした、音楽体操プログラムを用いた共同研究「御浜・紀宝プロジェクト」を2011年から2012年にかけて1年間実施しました。その結果、適切な運動と音楽を組み合わせた音楽体操プログラムを実施することで、認知機能の維持・改善により効果のあることが証明され、4月25日(金)に国際的に権威のある医学系オンラインジャーナル「PLOS ONE」に論文が掲載されました。

 総務省が先日発表した2013年10月時点の人口推計によると、65歳以上の高齢者(老年人口)の割合は数値を公表し始めた1950年以降、初めて25%を超えました。このような急激な高齢化社会を迎える中で、認知症患者の増加は大きな医療、社会、経済問題となっています。すでに現在、適度な運動(有酸素運動)が認知症の予防に効果があるという実証がなされていますが、今回のプロジェクトは、運動と音楽を組み合わせることにより、運動のみを施行したときに比べより大きな成果が得られることを証明しました。

 三重県御浜町・紀宝町は紀伊半島南端に位置し、高齢者人口は30%を超え、“20年後の日本を先取りする”といわれている地域です。同プロジェクトでは、御浜町、紀宝町の65歳以上の健常高齢者に対し、音楽と運動を組み合わせたエクササイズを行う群(音楽体操群:40名)、運動のみを行う群(体操群:40名)、脳検査のみを行う群(脳検査群:39名)のグループに分け、1年間にわたってプログラムを実施し、その前後で検査を行いました。音楽と運動を組み合わせたエクササイズは、ヤマハ音楽振興会が開発し、“ヤマハ大人の音楽レッスン”の講座の一つであるヤマハウェルネスプログラム『健康と音楽』を用いました。

 今回の実証実験の結果、視空間認知や全般性知能、精神運動速度など複数の項目で、音楽と運動を組み合わせた音楽体操群の方が、体操群あるいは脳検査群よりも、健常高齢者の認知機能の維持・改善に有効であることが分かりました。これは、認知機能への改善効果が、既に証明されている運動に適切な音楽伴奏が加わったことにより、さらに高まったことを示しています。

 プロジェクトリーダーの佐藤正之准教授は、「今回の実験で注目すべき点は、音楽に合わせてリズムを取りながら体を動かす音楽体操群、運動のみの体操群、検査のみの脳検査群の間での分析の結果、音楽体操群で、視空間認知が有意に改善していたことです。実験に活用したヤマハのプログラム『健康と音楽』は、体操の内容と音楽伴奏が一体化した非常に良いコンテンツです。認知症患者の増加は、国家の喫緊の問題です。治療とともに予防が大切であることは論をまちません。“○○をすれば認知症が防げる”といった根拠に基づかないキャッチフレーズが巷に溢れる昨今、医学的・科学的にみて妥当な方法を市民に伝えることは、われわれ医師の務めでもあります。そのひとつの有効な手段として、体操と音楽との組み合わせに今後も注目していきたいと思います」と述べています。

 今後この研究の成果が、厚生労働省により推進されている介護(認知症)予防の地域支援事業に貢献することを期待しています。

 

 今回の実証実験の概要は以下の通りです。

■実証実験の概要

プロジェクト名:御浜・紀宝プロジェクト 通称「御浜・紀宝まちかどエクササイズ」

対象:65歳以上、健常者

グループ分け

・音楽体操群 両町計40名

・体操群(音楽なし)両町計40名

・脳検査群 両町計39名

期間:

御浜町 2011年10月~2012年9月

紀宝町 2011年11月~2012年10月

使用ソフト:ヤマハウェルネスプログラム『健康と音楽』

実施頻度・時間:月3~4回、1回60分 年間39回

実施場所:三重県御浜町、同紀宝町

検査内容:

頭部MRI

心理検査:知能、記憶、構成、前頭葉機能

血液検査:全血球算定(CBC)、一般生化学

生理検査:心電図、呼吸機能

近赤外線分光法 (NIRS)

検査場所:紀南病院(三重県御浜町)

研究内容:健康な高齢者(65歳以上)を音楽体操群(運動+音楽)、体操群(運動のみ)、脳検査群の3グループに分けて、それぞれ実施前後に上記検査を実施し、運動+音楽の認知機能に対する効果を検証しました。

■研究結果

 ここでは、音楽体操群が他の群に対して有意に良好であったものを取り上げます。

表の青色部分はプログラム実施前、紫色部分は実施後の値を示しています。また値は左から運動+音楽のグループ (音楽体操群)、運動のみのグループ (体操群)、検査のみのグループ (脳検査群)となっており、プロジェクト開始時と終了時の結果を示しています。検定にはWilcoxon signed rank testを用いています。

・MMSE

 MMSE(ミニメンタルステート検査)は、認知症の診断用に米国で開発された質問セットです。「今年は何年ですか」などの30点満点の質問から構成され、見当識、記憶力、計算力、言語能力、図形認知などを検査します。24点以上で正常、10点未満では高度な知能低下、20点未満では中等度の知能低下と診断されます。

 その結果、音楽体操群のみ、エクササイズ後に点数が有意に向上しました。

・視空間認知

 視空間認知とは、物体の位置・方向・姿勢・大きさ・形状・間隔など、物体が三次元空間に占めている状態や関係を、すばやく正確に把握、認識する能力をいいます。視空間認知能力を測るには、いろいろな図形の模写を用います。今回は Strub & Black (2000) の方法に従い、立方体や複合三角形、十字架など5つの図形の模写を採点しました。

 その結果、音楽体操群でエクササイズ後に、有意に向上しました。

・RCPM

 RCPMとは、Raven's Coloured Progressive Matricesの略で、レーヴン色彩マトリックス検査と呼ばれています。非言語性の認知機能検査で、表示された図案や図柄の中で一部欠落したところにあてはまると思われるものを6つの選択図案の中から1つだけ選ぶといった検査です。言語を介さずに答えられる検査で、被検者に負担をかけることなく思考能力を測定できます。また得点だけでなく施行時間を測定することにより、精神運動速度 (いわゆる頭の回転の速さ) を知ることができます。知的機能を測る検査として、世界中で広く利用されています。

 ここでは音楽体操群と体操群がともに、エクササイズ後に有意に施行時間が短縮しています。つまり、両グループともに精神運動速度がアップしており、これは運動そのものによる効果と思われます。

■結論

 今回の実証実験により、音楽と運動を組み合わせたエクササイズは、健常高齢者の認知機能の維持・改善に有効であることが分かりました。これは、すでに認知症の予防効果が証明されている運動に音楽伴奏が付くことにより、知能や視空間認知に“上乗せ”の効果があったことを示しています。その機序としては、音楽が運動そのものの効果を高めたこと、音楽に合わせて運動を行うことにより運動と同時にある種の認知課題として作用したこと、さらに音楽が頭頂葉を刺激したことにより同じ頭頂葉が関与する視空間認知が改善したと考えられます。

 プロジェクトに参加した人へのアンケートでは、「もの忘れを感じる中、少しでも記憶がとどまるような気がする」「日常生活で使わない筋肉を動かすことで、脳が元気になることを実感した」「普段の生活では意識して歩いていないので、リズムウォーク(エクササイズの一部)は意識しながらするので姿勢が良くなり、体操後はとても気持ちがいい」「歩く速度が速くなり、つまずくことが少なくなった」「音楽があることで気持ちがリラックスでき、楽に楽しくできた」などの回答が寄せられました。

・プロジェクトリーダー 佐藤正之准教授のコメント

 適度な運動(有酸素運動)が認知症、アルツハイマー病の発症予防に有効とのエビデンス(科学的根拠)はほぼ確立しています。フィギュアスケートやラジオ体操の例で分かりますように、音楽に合わせて体を動かすには、動きとバックに流れる音楽を連動させることが必要です。そのためには、運動をしながら音楽を聞き、その曲のリズムやテンポを分析し、それと運動が合っているか否かを判断し、さらにその結果を自らの運動にフィードバックするという操作を、同時に行わなければなりません。これはかなり複雑な認知課題と言えます。また、歌唱はそれ自体が有酸素運動であることから、音楽伴奏がついた運動は、伴奏なしの運動に比べて、認知機能への効果がより高まることは十分に予想されることでした。

 今回の実験で注目すべき点は、音楽体操群、体操群、脳検査群の間での分散分析の結果、音楽体操群で、視空間認知が有意に改善していたことです。また、実験に活用したヤマハのプログラム『健康と音楽』も、運動の内容と音楽とが一体化した非常に良いコンテンツでした。育成プログラムによりトレーナーの質も保証されており、介入前後での詳細な検査とともに、ハード、ソフトともに良質であったことが有意な結果を生むことができた理由と考えています。

 認知症患者の増加は、国家の喫緊の問題です。一般市民の関心も高く、予防教室などを行っている自治体も多々あります。同じ行うなら、医学的・科学的に有効性の証明されたものの方が好ましいことは論をまちません。今回の結果はそのひとつとして、運動と適切な音楽の組み合わせが認知機能の維持・改善により高い効果をもたらした点で注目されます。

・御浜町からのコメント

 認知症になってから、あるいは、認知症状が進行してからの支援ではなく、認知症の早期対応や予防を含めた認知症対策は、当町にとりましても大きな課題の一つでもあります。このような現況の中、誰にでも馴染みやすく、分かりやすい音楽と運動が、今回の医学的な検証から、認知機能の維持・改善への対策の一つとして効果を得られたことは、大変ありがたいことと思っています。

 また、毎週顔を合わせ仲間として参加できた効果もあったと聞いていますので、人と人とのつながりづくりを大切に、高齢者が積極的に社会参加、自発的な活動の促進へとつながる取り組みができるよう進めていきたいと考えております。

・紀宝町からのコメント

 このプロジェクトの成果を通じて、音楽体操が認知機能の維持・改善に有効であると医学的に検証されたことを受け、今後この取り組みを町内全域に広め、町民の皆さまが楽しみながら取り組んでいただける環境整備を構築してまいりたいと考えております。

 また、このプロジェクトへの参加者からは、週1回の運動が待ち遠しく、日常生活に張りが出たといったコメントも見られ、心身両面からの変化があったものと伺っております。

 今後は、このプロジェクトを機に、紀宝町独自の健康づくりに真摯に取り組みながら、住み慣れた地域でいつまでも元気に暮らせる町づくりを目指してまいりたいと考えております。

■ご参考-ヤマハウェルネスプログラム『健康と音楽』について

 『健康と音楽』は、“ヤマハウェルネスプログラム”として、ヤマハが2009年より提供しているプログラムです。『健康と音楽』は、音楽とやさしい運動を結び付けたエクササイズで、体力の維持・増進を、音楽の伴奏のもと楽しみながら行えるプログラムとなっております。「歩く」という動作を基本に、音楽に合わせてリズミカルに動く「リズムウォーク」や、講師が叩くリズムをまねして、手や足でリズムを打つ「リズムエクササイズ」などがあります。健康のために体を動かしたいけれど運動は苦手という方や、音楽の経験がない方でも無理なく楽しく続けられます。

『健康と音楽』についての詳細はホームページをご参照ください。

http://jp.yamaha.com/music_education/otona/courses/kenko_ongaku/

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プレスリリース添付画像

プログラム実施の様子

年中みかんのとれる御浜町

ウミガメが産卵する紀宝町

プログラム実施の様子

MMSE

視空間認知

RCPM

三重大学 佐藤 正之准教授

御浜町長 古川 弘典

紀宝町長 西田 健

御浜・紀宝プロジェクト:概念図

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